東日本大震災で見えた自衛隊兵站の脆弱性と防衛産業の危機 溝浦健児
はじめに‐不毛な国防論議‐
先の大戦から66年、日本国は自虐史観に基づく土下座外交を行い、中華人民共和国や大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国やロシア連邦といった国々の意向を尊重し、伝統的な日本の価値観と有意義な国防論議を否定、もしくはタブー視する左翼的思想(1)が、政官財界、マスコミ、教育現場を問わず蔓延してきたが、近年の特定アジア諸国の高圧的で横暴な振る舞いと、それに対して毅然とした態度を取れない政治家、役人への不満が国民や一部有識者(2)の中に鬱積し、一部で右傾化(3)してきている傾向がある。
不毛な国防論議が繰り返される中で見落とされている事だが、右派にせよ左派にせよ、重要なのは、“憲法第9条死守”、“自衛隊は違憲”、“在日アメリカ軍基地撤廃”などといったスローガンを掲げる無防備平和主義者も、“敵基地先制攻撃”、“積極的な自衛隊海外派遣”などを唱える積極的軍事行動支持派も、自衛隊には「戦力投射能力」(4)が、皆無だという理解が無い事だ。
シビリアン・コントロール(文民統制)(5)とは、“素人が国防を担う”事では断じてなく、現状は本来の文民統制の意義と乖離しているとしか言えない。
当然、この程度の認識しか無いのだから、真の意味での兵站(ロジスティックス)(6)の意義と重要性を理解出来ている人間は、ほんの一握りだろう・・・。
第一章 ‐自衛隊兵站の脆弱性‐
東日本大震災における自衛隊の方々による、献身的な救助・復旧活動には、ただ頭が下がる思いであるが、同時に見過ごされてはならない大きな問題点が見えてきた。
「自衛隊員達は、満足な食事もとらず(とれず)、冷暖房も無い過酷な環境下で寝泊りし、懸命な救助活動を続けている」とマスコミが報じ、国民は賞賛した。有識者達は、今回の事で自衛隊に対する国民の理解が深まり、より身近な存在になったと言う。
本当にそうなのか?我々は、もろ手を挙げて、この状況を喜んでいて良いものなのか?答えはノーである。
本震災における災害派遣でクローズアップされたのが、必ずしも十分とは言い難い、兵站(後方支援、継戦能力)の不備である。10万人を超える自衛官が投入されれば、当然、膨大な量の食料や燃料などの、物資補給が必要となる。例えば、「10万人が朝昼晩の食事をとるには、1日あたり30万食が必要」で、「10万人体制を維持する為には、最低30万の兵力(人員)が必要」であり、各国(先進諸国)では、ごく当たり前の話として、その兵站が確保される(7)。
しかし信じ難い事に、我が国では、自衛隊専用の補給線が完備されず、被災者やボランティアと、物資の補給において競合する形となってしまった。高い志を持つ自衛隊員達は、物資補給を民間人に譲り、孤軍奮闘、結果、“先の大戦を彷彿とさせるような”事態に陥った(8)。
この兵站軽視の問題は、同じように被災し、家族の安否も分からない中でも任務を遂行した、後方支援を担当した自衛隊員には、災害派遣手当が支払われない事(9)等に見受けられた。
最終的には、民間の力(企業やボランティア)、善意によって支えられたため、現場の自衛隊員達の超人的な頑張りも相まって、破綻する事は免れた。しかしその陰で、3名の陸上自衛隊員が病死(過労死?)するという、悲劇も発生している。その内の1人は20代であり、結婚して家庭を持ったばかりの若い自衛官であった(10)。世間の風潮もあり、防衛予算が削減されていく昨今、自衛隊に求められる(期待される)任務、役割は逆に増大している。特に存在感を増しているのが、今回も注目された災害派遣である(11)。皮肉にも、今回の自衛隊の活躍で、自衛隊に対する“誤った認識”がさらに浸透した感は否めない。ある自衛隊幹部は、「国民の期待にはもちろん応えたいが、我々の能力にも限界はあり、何でもこなす便利屋ではない」と苦しい胸の内を、産経新聞に吐露した。
確かに、災害派遣も大切な任務の一つだが、自衛隊の本分は防衛出動(国防)であって、災害派遣ではない。有事を想定して整備された、自己完結能力(12)及び強力な組織力を支える基盤は、平時からの(防衛出動を想定した)厳しい訓練である(13)。
にもかかわらず、国民やマスコミばかりか、政治家や官僚までもが、自衛隊を災害救助専門部隊だと誤解し始めている事を、深く憂慮する。
この傾向に拍車をかけているのが、防衛予算の削減である。我が国の防衛予算には、自衛官の子ども手当や米軍関係の費用が計上され、実際に自衛隊が使える(純粋な)予算が少ないという問題がある上(14)での、さらなる削減である。災害派遣では役に立ちそうに無い火器兵器は、予算が通りにくい現状があり、戦力供給の根幹を揺るがしかねない。
国防を最優先課題として、日夜、厳しい訓練を積む自衛隊の錬度は最高レベルに到達し、災害派遣という任務を完遂出来る高い能力を保持している。彼等の足枷は、予算と法律の壁であり、このような予算と法律の問題は、現場の自衛官達には成す術がなく、政治の責任である。
予算や法律に拘束され、人員や兵站が不足する中で、国民の期待に応えたいと無理をする自衛隊員達。その献身的な奉仕の精神は賞賛するべきもの(15)だが、旧日本軍に蔓延したような、極端な精神主義に、問題の解決策を見出して(放棄して)はならない。
自衛隊員の高い自殺率も、人員不足と無関係ではないだろう。彼等が安心して任務に当たれるように、増員と欧米的合理主義の導入、さらには「自衛隊の明確な定義づけ」が急務である。
我が国は、長大な海岸線を有する海洋国家、島嶼国家であり、地震や津波といった自然災害の脅威や、軍拡を押し進める不安定な隣国という脅威を抱えている。このような状況下にある日本国を防衛する為には、強力な空海戦力が必要なだけではなく、離島部へ大兵力を送り込む際の中核となる質量共に整備された(戦車を含む)陸上戦力が不可欠である。
従来の護衛艦(駆逐艦)だけでなく、港湾設備不要で人員や物資の陸揚げが可能な、強襲揚陸艦や輸送揚陸艦、さらに兵站を担う高速戦闘支援艦が必要なのは言うまでもない。武士道、大和魂を持つ自衛隊員達は決して弱音を吐かない。だからこそ、我々がその気持ち、彼等の想いをくみ取り、伝えていかなければならないのである。
第二章‐防衛産業の危機‐
F‐15戦闘機、イージス護衛艦(駆逐艦)、90式戦車など、世界最高レベルの兵器を運用する自衛隊に戦力供給を行う、我が国の防衛産業について論じていきたいと思う。
防衛産業というと、「天下り先」「政官財の癒着」「濡れ手に粟」といったマイナスイメージ(16)を連想するかもしれないが、我が国の防衛産業の実態は、イメージとは大きく異なる。日本の防衛産業に従事する企業を支えるのは、国防の担い手としての誇りと高い志、連綿と継承されてきた高い技術力を持つ職人達(17)である。「たとえ多くの利益が出なくても、外国企業(特に仮想敵国企業)に技術が流失するような真似はしない」という愛国者達である(18)。
特殊な業界ではあるが、防衛産業の裾野は広く、たとえば、戦車1両造るのにはおよそ1300社もの企業が、護衛艦1隻建造するにはおよそ2500社もの企業が関わっている(19)ため、国産兵器の開発と生産を完全に止めてしまえば、高度な技術は散逸(20)し、従事する技術者達は路頭に迷ってしまう。
よく、武器輸出三原則を緩和すれば良いという意見もあるが、それだけで全てが解決するほど、簡単な問題ではない。確かに、ハイテク化し高価格化する先進諸国(欧米諸国)の兵器開発は、国際共同で行われる事が珍しくなくなってきており、ミサイル防衛システムや第6世代戦闘機の研究開発には、我が国も積極的に参加していくべきであろう。
しかし、兵器を輸出して外貨を稼ぐとなると話は別で、技術的には世界最高水準ながら、日本の国土に合わせ、日本人の体格や自衛隊の運用思想に合わせた兵器が、世界の兵器市場における過当競争の中で生き残っていけるかどうかは微妙で、“精魂込めた防衛兵器”が世界の紛争地で使われる事など、防衛産業従事者達も望まないであろう。
防衛力の整備には、10年、20年単位の時間がかかるという現実もあり、“全てを画一的に切り捨てるような誤った事業仕分け(予算削減)”の風潮には流されず、必要な所にはしっかりお金をかけるという、政治の力と責任が不可欠だ。
輸入すれば開発リスク無しに、安価に兵器が手に入るというのは、浅はかな考えだ。どんな国(※主として欧米諸国)であっても、「日本には作れない」と分かれば足元を見て価格を吊り上げてくるであろうし、最新モデル、最高水準のものは売ってくれないの影響は必至である。本艦と戦略輸送機を組み合わせる事で、北方四島の即時基地化が可能になるからだ。
親日国家フランスと言えども、自国の利益を優先する。これが国際社会の現実であり、世界の常識なのである。だからこそ、日本の防衛産業を衰退させてはならないのだ。
「100年兵を養うは、ただ平和のためである。」という、山本五十六元帥海軍大将(23)の言葉で、本章を締めくくりたい。
第三章‐サイバー戦争‐
先の大戦において我が国が敗北した大きな要因の一つに、インテリジェンス(情報の収集・分析及び操作)の軽視にある。この問題点は、イノベーション(刷新、新機軸)とロジスティックス(兵站・継戦能力)の軽視とも相まって、大日本帝国に致命傷を与える結果となった。
そして現在、インテリジェンスの死活的重要性が、相変わらず理解されていない。三菱重工業へのサイバー攻撃事件がよい例である。政治家もマスコミも、ことの重大さに気づいていない。
我が国の防衛産業の雄である三菱重工業が標的となった今回のケースでは、自衛隊が使用している「80式空対艦誘導弾(ミサイル)」の、性能及び耐久性が記された管理報告書の一部が流出した可能性があり、同兵器を製造している名古屋誘導推進システム製作所には、約30万回もの不正アクセスが仕掛けられた。
流失した可能性のあるデーターそのものは、防衛省の指定する「保護すべき情報」には該当しない、比較的に機密度が低い「保護の対象外」情報だとされる。
しかし、“攻撃”はこれだけにとどまらず、潜水艦や護衛艦を建造する神戸造船所や長崎造船所、さらにそれ以外の数十箇所のサーバーにも、コンピューターウイルス感染が確認され、一部では、戦闘機などの防衛装備品や原子力発電所に関する情報が、勝手に外部へ送信された痕跡が残っており、機密情報が盗まれた可能性もあるという。
米情報セキュリティー会社、トレンドマイクロが、ウイルスに感染したコンピューターを遠隔操作する画面に、中国語が使われていたケースを確認している。
中国政府は、公式に関与を否定しているが、これらは明らかに「中国サイバー軍」(24)による組織的、計画的な“軍事行動”(25)である。これは戦争なのだ。敵性国家による電子的攻撃なのである。21世紀においては、陸海空のみならず、宇宙空間とサイバー空間も、雌雄を決する“戦場”と位置づけられているのである。
おわりに‐今伝えたいこと‐
昨今の東アジアにおける軍事バランスは、危うい状況にある。中国など周辺諸国の軍事費は増大している一方で、我が国の防衛予算は右肩下がりであるからだ。
“事業仕分け”のやり方(26)などを見ていると、政権与党や財務省は、自衛隊や防衛産業に必要な予算を、「単なる数字」としか見ていないのではなかろうかと思えてくる。緊縮財政も大事だが、予算(資金)とは言うならば、国家活動、経済活動の為に必要な潤滑油で、本当に大切なのは産業であり、これは雇用や生活と同義語である。
膨大なデフレギャップが存在し、極端な円高傾向が続いている我が国は、逆にこの状況を活かして、政府紙幣(27)や無利子国債を限定的に発行(28)し、復興予算及び防衛予算を捻出するというような、思いきった政治の決断(29)も必要ではないだろうか?
歴史上、幾多も発生した悪性インフレの苦い記憶、政治家と役人の事なかれ主義、我田引水の如く利権に群がろうとする人々、ポピュリズムによる安易な乱発など、政府紙幣にはリスクが多く、また、“大陸紙幣ほど役に立たないものはない。”という格言で嘲笑されるかもしれないが、欧米諸国に「日本化」(30)と揶揄されている現状よりはまだマシであろう。
アメリカが日本の国防上、根幹となる最重要部分(軍事衛星システムや諜報機関情報網)を握っている現状では極めて困難な事ではあるが、“アメリカはあくまで、アメリカの国益で動く”現実をふまえれば、我が国自前の軍事衛星システムと諜報機関情報網の整備を、国家の強い意志で進めるべきである。
必要な所にはしっかりとお金をかける事で、エシュロン(31)やDSP衛星(32)などに依存せず、また政治家と有権者が有意義な国防論議を交わせるようになった時、我が国は、真の意味での独立国家、主権国家となる事ができるのだ。
参考文献及び資料
・小川和久、坂本衛著(2005年)『日本の戦争力』アスコム・小川和久、坂本衛著(2007年)『日本の戦争力VS.北朝鮮、中国』アスコム・桜林美佐著(2011年)『日本に自衛隊がいてよかった自衛隊の東日本大震災』産経新聞出版
・桜林美佐著(2010年)『誰も語らなかった防衛産業』並木書房
・「カレント」誌、平成14年1月号、丹羽春喜「政府貨幣と日銀券の本質的な違いに着目
せよ!」
・産経新聞、2011年9月11日、朝刊1面及び3面「大震災6ヵ月見えた国防の穴」・産経新聞、2011年10月28日、朝刊28面「警告サイバー空間新たな戦場備え急務」・msn産経ニュース、2011年9月21日、「サイバー攻撃三菱電機IHI川崎重工にも狙われた防衛産業」http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110921/crm11092102000003-n1.htm・朝日新聞社の速報ニュースサイト、2011年10月24日、「軍事・原発情報流失か三菱重へのサイバー攻撃」http://www.asahi.com/national/update/1023/TKY201110230394.html・朝日新聞社の速報ニュースサイト、2011年10月12日、「ミサイル製造所に30万回アクセス三菱重工サイバー攻撃」http://www.asahi.com/digital/internet/TKY201110120220.html
(1)そもそも左翼とは、フランス革命後の国民議会において、議長席から見て左側を「急進派」が占めた事に由来するが、時代や用法によって定義は異なり、マルクス・レーニン的なソビエトの共産主義から、中国や朝鮮の反日的思想及び行動の呼称など、複数の使われ方がある。本論文では後者を採用。
(2)元航空幕僚長で軍事評論家、田母神俊雄氏など。
(3)左翼と同じ経緯の語源も持ち、フランス国民議会において、議長席から見て右側を「保守派」が占めた事に由来するが、右翼もまた、時代や用法によって定義が異なり、民族主義や国家主義として用いられる事が多い。
(4)戦力投射(パワー・プロジェクション)能力とは、多数の戦略核兵器とその運搬手段(戦略型原子力潜水艦や大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機など)を運用する事で保有する、大規模核攻撃能力及び、空母打撃群や遠征打撃群、数百機規模での制空戦闘機や戦略爆撃機、空中給油機や数十機規模の空中警戒管制機を保有し、陸海空の統合作戦を展開して、数十万規模の地上軍を海を越えて上陸させ、敵国を制圧・占領できる能力の事。
(5)主権者たる国民が選挙で選んだ首相/大統領及び議会が、軍事政策における最終決定権を持つ、民主主義の原則。
(6)兵站(ロジスティックス)とは、軍事作戦を遂行する為に不可欠な、燃料・武器弾薬・食料等の輸送及び補給、各種兵器の整備、軍需物資の備蓄管理、兵員の衛生管理や施設の構築及び維持といった活動の総称。後方支援、継戦能力と言い換える事も可能であり、この場合、会計や法務、人事や広報といった広い範囲の活動まで及ぶ。
(7)米軍など諸外国では……交代要員を加味して兵は少なくともその3倍、30万人が必要だという考え方です。今回、初めて即応予備自衛官も投入され、大いに活躍しましたが、規模は小さく長期の運用は、なかなか難しい。これまで陸上自衛隊は、「減らされ続けた人員を少しでも軌道修正したい」と、再三、実員増の要求をしてきましたが、財務省は認めず、かの事業仕分けでも一蹴されています。桜林美佐著(2011年)『日本に自衛隊がいてよかった自衛隊の東日本大震災』産経新聞出版165頁参照。(8)震災当時、海自の大型輸送艦は、修理や海外派遣等で3隻中2隻が使えず、自衛隊員の海上輸送は民間のフェリー会社に依存した。
(9)政府や総務省が、給与減を各種手当ての増減で補うなどと考えているなら、それは避けるべきです。それは、駐屯地や基地などに居残って様々な調整などにあたっている隊員にはメリットがないからです。彼らは大変重要な役割を担い、家にも帰れず不眠不休で作業しているにも関わらず、派遣手当などは付きません。派遣隊員の給与は据え置きになっても、居残り隊員が一割減になれば、目も当てられません。桜林美佐著(2011年)『日本に自衛隊がいてよかった自衛隊の東日本大震災』産経新聞出版183頁。

(10)3名の陸自隊員が派遣中に病死しています。50代2名、20代1名で、20代の隊員はまだ新婚だったそうです。活動との因果関係は分かっていませんが、過酷な災害派遣と無縁だったとは言い切れないでしょう。桜林美佐著(2011年)『日本に自衛隊がいてよかった自衛隊の東日本大震災』産経新聞出版197‐198頁。
(11)自衛隊の「存在する目的」災害派遣78,4%、「今後力を入れていく面」災害派遣73,8%内閣府大臣官房政府広報室「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」平成21年1月
(12)被災地に行ってきた人が、こんなことを言った。「救援活動に来ている人で宿泊施設はいっぱいだったけど、自衛隊は泊まってなかったよ」気の毒に思ったというが、自衛官たちにとっては至極当然のことなのである。自衛隊は「自己完結能力」を持っている組織。つまり、自分たちで何でもこなすのだ。災害派遣に出ても、宿泊所を必要としない。天幕を張って食事も作る。そして、組織内において「使う側」のニーズに「供給する側」が即座に応じられることも特徴だ。桜林美佐著(2011年)『日本に自衛隊がいてよかった自衛隊の東日本大震災』産経新聞出版122頁。
(13)気がかりなのは、これからのことです。この震災発生後も、噴煙を吐き続ける鹿児島県の新燃岳への対処や、ロシア機の接近に対する空自機の緊急発進(スクランブル)、尖閣諸島海域に姿を現している中国漁船や、海自艦艇を威嚇する中国海軍ヘリに対する警戒・監視など、国防に関わる懸案事項が多発しています。にもかかわらず、多くの国民には、今、「自衛隊=災害派遣」のイメージが強くある。このままでは、今後、自衛隊の予算や装備が災害対処だけを考慮したものになる可能性が懸念されます。災害に備えることは必要ですが、それ以外のもの、たとえば火砲などは「要らないのでは?」という風潮になりかねません。これは国防上、大きな問題です。今回のような大規模災害派遣が長期にわたって続けられるのは、彼らが自衛官だからこそです。自衛官は国を守るために戦う人たちです。だからこそ、普段から高いレベルの訓練をしています。高いレベルとは、「災害派遣」ではなく、「防衛出動」です。防衛出動の際は、糧食だけでなく銃も弾も持つ必要があり、戦車も火砲も必須の装備です。国土が占領されるかもしれないし、仲間が死ぬかもしれない。そして、自分も死ぬかもしれないという極限状態。自衛官は日頃、そのために訓練している集団だからこそ、精強なのです。災害派遣が主になるなら、兵器は不要になるとは乱暴な話で、日頃、そうした装備を扱っているからこそ、国内の災害派遣で実力が発揮できることを忘れてはなりません。桜林美佐著(2011年)『日本に自衛隊がいてよかった自衛隊の東日本大震災』産経新聞出版156‐158頁。
(14)2010年末に「防衛計画の大綱」及び「中期防衛力整備計画」が閣議決定され、様々な議論が行われています……全体の予算は、今後5年間で23兆3900億円の枠内とされていますが、前中期(17中期)と比べて、約8500億円もの削減です。しかも驚くべきことに、この中には自衛隊員に支給される「子ども手当」5年間分の1500億円が含まれているのです!つまり、実質的な今後5年間の中期防衛予算は、少なくとも1兆円もの減額なのです。桜林美佐著(2011年)『日本に自衛隊がいてよかった自衛隊の東日本大震災』産経新聞出版190‐192頁参照。
(15)もちろん、自衛隊が無理をしてでも最大限努力する姿は尊いもので、感謝するばかりですが、国民が無自覚なままでは、国家は弱るだけです。日本の自衛隊に与えられている予算・人員・法制度はすでに破綻しています。今回の災害派遣によって、「自衛隊への理解が深まった」とも言われていますが、真の理解とは、それらのひずみを正し、災害派遣だけではない戦闘組織としての充実を図るべく国民が努力することではないかと、私は思います。桜林美佐著『日本に自衛隊がいてよかった自衛隊の東日本大震災』産経新聞出版159頁。
(16)防衛装備品調達を巡る汚職で摘発された、守屋武昌元防衛省事務次官の収賄事件など。
(17)石井製作所は、昭和三五年から、三菱重工との付き合いが始まり、61式戦車の頃からのパートナーだという……ここではエンジンや車両の部品を担っているが、種類は多いものの数が少ない。つまり、機械で量産できない、いわば芸術的技術を要する部品や手間のかかる部品など三菱重工のような大きい会社では対処できない「一点もの」の部品を引き受けている。桜林美佐著(2010年)『誰も語らなかった防衛産業』並木書房69‐71頁参照。
(18)10式戦車は足回りの部品を減らしつつ、従来のものより二割程度強度を増すことを要求されている。これを実現させるための金属加工は大変苦労したという。従来の工程よりも時間はかかり、カッターの刃も一本だったところが、二本必要になる。そうした「目に見えない負担」は企業努力に頼っているのが現状である……独身寮を整備し、従業員がちゃんと栄養のあるものを食べているかどうか注意を払い、結婚して独身寮を出ることも心から喜ぶ。そんな人情味溢れる社長が率いるのが、戦車の重要部品を担う洞菱工機なのである。桜林美佐著(2010年)『誰も語らなかった防衛産業』並木書房59‐60頁参照。
(19)潜水艦もまた、直接契約する三菱重工や川崎造船のようなプライム企業以下、一四〇〇社あまりの関連企業が存在し、技術の継承や基盤の維持が非常に厳しい状況に陥っているのだ……技術の進歩による装備品のハイテク化などを要因として、整備維持経費の占める割合が増加しており、主用装備品調達の比重は減少傾向となっている。また防衛予算が八年続けて縮減されていることもあり、二二年度予算約五兆円のうち、装備品購入経費は九千億円程度に抑制されているのだ。桜林美佐著(2010年)『誰も語らなかった防衛産業』並木書房23頁参照。
(20)この瞬間にも防衛部門から撤退、または倒産、廃業する企業が相次いでおり、職人たちは日に日に高齢化し、技術の継承はいとも簡単に途絶えてしまうからだ。桜林美佐著(2010年)『誰も語らなかった防衛産業』並木書房11頁。
(21)。さらに、性能ダウンの為の改修などのコストもかさみ、ブラックボックスだらけのモンキーモデルを、高く買うというような馬鹿な話になる。
一方で、第三世界で使われているような安価な兵器は性能もそれなりであり、粗悪品も混ざっているだろう。全ての自衛隊装備を国産化するのは現実的ではないにせよ、重要な部分の研究開発能力、製造(量産)能力は、外交交渉の観点からも維持すべきであり、その上で総合的見地から、準国産、ライセンス生産、輸入(FMS=有償援助を含む)をバランスよく選ぶべきだ。
我が国の財政事情を考慮すれば、ある程度の予算削減は不回避なのかもしれないが、雇用創出や経済効果、軍事技術の民間への転用(スピンオフ)などのメリット(22)を、もっと評価する必要がある。
今年6月、ロシア連邦は、フランス共和国から、ミストラル級揚陸艦2隻を購入する契約を結んだ。グルジア共和国等への兵力展開を睨んだものだという意見もあるとは言え、この最新鋭艦は極東ロシアの要衝、ウラジオストクに配備される予定で、北方領土問題へ
(21)同じF‐15戦闘機でも、米空軍仕様と空自仕様では、搭載電子機器や燃料タンク容量などに差があり、空自が保有するF‐15J/DJで、北朝鮮のノドン発射台などを空爆する事は困難である。
(22)日本国内で製造された装備品の導入は、数千社に及ぶ関連企業に「仕事」を与え、内需拡大に繋がる。逆に、海外からの輸入は、「税金の国外流失」に繋がり、外国企業の利益となる。
(23)真珠湾攻撃作戦を立案した、大日本帝国海軍の軍人。第26、27代連合艦隊司令長官。
(24)海南島基地に存在するとされる中国人民解放軍の電子戦部隊。専属のハッカー多数を抱える。
(25)2010年9月に発生した、イラン核施設における遠心分離機の誤作動及び停止は、アメリカとイスラエルが行ったサイバー攻撃によるものだとされる。これにより、イランの核開発計画は、年単位の遅滞を余儀なくされた。
(26)スーパーコンピューターや宇宙ロケット事業における本当の無駄とは、メインの事業とは直接関係無い「箱物作り」や「“渡り”を繰り返す天下り役人の高い給与」等のはずであるが、こともあろうに、政権与党民主党は、スーパーコンピューターや宇宙ロケットそのものを「斬ろう」とした。これは、例えるなら、「まだ手術で取り除けるレベルの悪性腫瘍を抱えた患者を、治療せずに、安楽死させる」ようなものである。
(27)“貨幣の製造及び発行の権能は、政府に属する。”「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」(昭和62年、法律第42号)の第四条
(28)直接、政府紙幣「日本政府券」の発行を行わずに、一定額分の「政府貨幣発行権」を日本銀行に売却し、同額分の日本銀行券を発行するという方法もある。
(29)元大蔵省官僚の青山学院大学客員教授である榊原英資や、渡辺喜美みんなの党代表(元金融担当大臣)、元財務官僚の経済学者である高橋洋一やノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学教授ジョセフ・E・スティグリッツ、大阪学院大学名誉教授の丹羽春喜などが政府紙幣発行を提言した事があり、2009年2月には、自由民主党内に、「政府紙幣・無利子国債発行を検討する議員連盟」が発足している。

(30)“何ら有効な手立てを打たず、ただ問題を先送りする”姿勢及び傾向の事。(31)アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが共同運用する軍事用通信傍受システム。
(32)ミサイル防衛システムの「眼」となる、アメリカの早期警戒衛星。