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2012/09/01
日米安全保障条約の重要性―日本と東アジアの安全保障の観点から

中野洋平

はじめに
 
日米同盟の本来の意義は、戦後の日本が再び軍国主義に走るのを防ぐために、米国が日本を守り、日本に再軍備の口実を与えないというものであった。しかし、冷戦の激化に伴い、在日米軍と自衛隊は共産主義勢力に対する防波堤としての意義を持つようになった。その後も東アジアでは、中国とアジア諸国の紛争や、韓国と北朝鮮の軍事的緊張など、不安定な政治状況が続くこととなった。冷戦の終結後も、「東アジアではソ連崩壊後も非民主的独裁体制の国家がそのまま存続している。つまり、「自由民主主義体制対全体主義体制」という構図が存続している」(1)と言われている。また東アジアでは、中国と北朝鮮が主な脅威となっている。北朝鮮は閉鎖的で独裁的な軍事国家である一方、中国は市場経済への参入を試みながら、人権や自由に十分な配慮が無い。ここから、現代の日米安全保障条約は日本の防衛のみならず、東アジアの安定という意義も持つようになった。日米安全保障条約の意義について、東アジアの防衛という観点から述べることとする。
 
日本の安全保障
 
日本にとっての主な脅威として、中国と北朝鮮が挙げられる。中国は、軍事の近代化をすすめ、ロシアから新型の兵器を輸入するなど、軍事力の拡大を続けている。中国が核・ミサイル戦力や海・空軍力の近代化の推進とともに、海洋における活動範囲の拡大をも図っていることも指摘されており、中国の動向に注目することの必要性が唱えられている(2)。中国の軍事力は拡大する傾向にあるとされている。中国が台湾を威嚇または攻撃するために配備している短距離弾道ミサイルは他の地域に移動することが可能な上に、沖縄諸島も射程内に入っている。短距離弾道ミサイルの強化と同時に、中国は周辺諸国を工芸でいる中距離弾道ミサイルの近代化を進めており、日本全土を攻撃することができる。中国海軍は新型の駆逐艦や潜水艦を開発、またはロシアから輸入している。これらの軍事力拡大について中国は、「空軍力や海軍力を強化することによって、海洋資源を守り、シーレーンを守り、海洋権益を守ろうとしていると主張」しているが、「中国が守ろうとしている権益の範囲が周辺諸国の権益を侵している」ことが問題となっている(3)。実際中国は周辺国に対して海洋国土の領有権を主張し、国内においても一部の国土が外国によって不当に占拠されていると主張している(4)。それに加え、日本近海における中国軍の活動が問題となっている。2009年に駆逐艦5隻の海軍艦艇が沖ノ鳥島北東の海域に進出した。2010年には駆逐艦等10隻の海軍艦艇が、沖ノ鳥島西方の海域に進出した。このように、中国軍は日本近海において活発に活動している。このことからも、中国の影響力を拡大しようとする意図が見られる。中国軍の急激な近代化に加え、中国が日本の海洋権益を狙っているならば、それは深刻な問題となるであろう。中国が軍事力の拡大を続け、日本より優位に立つと判断した場合、軍事行動を起こすおそれがある。実際1988年に、南シナ海の南沙諸島を巡って中国とベトナムの間に海戦が勃発した。この戦闘はベトナム側に64名の死者が出るという小規模なものであった。小規模な戦争はコストが小さく、大規模な戦争に躊躇する場合でも、規模が小さければ戦争に踏み切る危険がある。つまり、日本に対して軍事行動を起こした場合のコストが、得られる利益よりも低いと中国が見積もれば、中国が軍事行動に踏み切るおそれがあると言える。しかし、「中国の台頭が周辺諸国にとって脅威とならない条件は、日米同盟を堅固に保ち、米国が鍵となる空軍力と海軍力をこの地域に残し、危機の際に本土から軍事力を速やかに投入する能力を維持していること」(5)とされている。中国の軍事近代化とミサイル開発は、日本にとって十分脅威となり得る。これに対処するためには、米国と空軍力と海軍力が鍵となるであろう。
 
一方北朝鮮は、軍隊を最優先とする「先軍思想」を基本理念としており、2010年には「国防委員会」が国家の最高機関となった。さらに、2010年11月にヨンピョン島を砲撃するなど、軍事行動に対する積極的な姿勢を見せている。北朝鮮は1993年3月12日にNPTの脱退を宣言し、5月には日本本土を射程圏内に収める弾道ミサイル、「ノドン」を開発した(6)。それに続いて、日米間の3カ国が中心になって北朝鮮の核開発を防ごうとしたが、「テポドン―I」の発射や高濃縮ウラン計画の発覚を経て、失敗に終わった(7)。北朝鮮は「先軍思想」によって軍を優遇し、多くの兵員を保有している。しかし、「旧式の兵器で武装した燃料不足で訓練不足の軍隊が、ハイテク兵器を装備した米韓連合軍」に勝つチャンスは無い」(8)と言われている。しかし、先程述べたミサイルと大量破壊兵器が日本にとって脅威となる。長距離やロットは日本には届かず、日本を攻める空軍力はなく、特殊部隊による破壊工作は損害が限定されるが、100基以上配備されている射程が1000キロを超える弾道ミサイルと大量破壊兵器の組み合わせは、日本に実質的な被害を与えることができる(9)。日本は専守防衛政策のため、北朝鮮に攻撃を仕掛けることは出来ない。さらに、「日米安保条約による米国の報復攻撃の信頼性を北朝鮮が疑っているならば、日本は北朝鮮にとって報復される心配のない安全な攻撃目標になりうる」。よって、北朝鮮の弾道ミサイルによる攻撃を防ぐには、米国との連携が重要となるのである。北朝鮮を無謀な軍事行動から遠ざけるためには、日米間の連携を密にすることによって、北朝鮮に対し、日本に攻撃を加えれば致命的な損害を被ると確信させることが重要である。
 
東アジアの安全保障
 
中国と北朝鮮が脅威となるのは日本だけではない。台湾と韓国にとっても、安全保障上深刻な問題となっている。
中国は近隣諸国に対する影響力を強め散る。1990年代から中国は、南シナ海や東シナ海の大半を自国の水域として囲い込む姿勢を見せている(10)。このことから、中国がその支配地域を拡大する意図が示される。さらに、中国が覇権を拡大するために、強硬な手段に訴える可能性が高いと言える。特に中国においては、台湾との対立が問題となる。「中米の前面衝突の可能性は低いが、中台が武力衝突する可能性は高い」(11)と言われており、東アジアにおける重大な懸念事項の一つとなっている。だが、日米同盟は台湾の安全保障にも大きな影響を与え得る。1960年の日米安全保障条約の第6条には、極東の安定のために、米国が日本において軍事施設を使用することが規定されている。また、1999年に制定された周辺事態安全確保法は、日本周辺の地域における、安全に影響を与える事態を想定したものである(12)。日本に米軍の基地が設置されていることは、台湾の安全に貢献している。「米国が、台湾海峡の平和を維持するためには、横須賀を母港とする第7艦隊、沖縄の嘉手納空軍基地、それに普天間海兵隊基地を使用できることが不可欠になる。」とされており、実際に米軍が中国軍の動きを止めた事例も存在する(13)。このように、日米同盟は台湾の安全保障において重要な役割を果たしている。台湾が中国の脅威から守られるには、日米の軍事提携が欠かせないのである。
 
北朝鮮と韓国の緊張も東アジアに問題をもたらしている。北朝鮮はヨンピョン島への砲撃など、韓国との軍事的緊張を強めており、予断を許さない状況となっている。この朝鮮半島における問題においても、日米同盟の持つ役割は重要である。日米安全保障条約第6条では極東の安全維持が在日米軍の任務の1つとされており、米韓相互防衛条約第4条では、「大韓民国は、自国の領域内及びその付近にある合衆国の陸軍、空軍及び海軍の軍隊を合意により定めるところに従って配置する権利を許与し、アメリカ合衆国はこれを受諾する」と定められている(14)。このことにより、朝鮮半島における有事の際には、米軍が日本の基地から行動できることになる。朝鮮半島の問題に関しては、第3海兵緊急展開部隊(IIIMEF:MarineExpeditionaryForce)が重要な役割を持っており、「削減したり再配置することがあれば、北朝鮮を無謀な行動に駆り立てることになる」と言われている(15)。部隊が前方展開していることは、脅威に対する抑止にも繋がり得る。日米の同盟関係は、朝鮮半島における問題においても、重要な役割を果たしているのである。
 
おわりに
 
これまで、日本と東アジア全体の安全保障の観点から、日米同盟の意義を見直してきた。そこで見えて来たことは、東アジアの安全には、米国の存在が必須であるのが現状だということである。在日米軍の意義は、日本を守ることのみにあるのではない。自衛隊を強化したからと言って在日米軍の必要性がなくなるというわけにはいかないのである。米国にとっても日本は戦略的に重要なパートナーとなっている。日本に米軍基地が設置されていることによって、米軍はその効果を発揮することができる。「米軍基地は日本の防衛と東アジアの平和と安全のために、また、米国の地域に対する安全保障・政治・経済的戦略を遂行する上で不可欠」(16)とも言われており、米軍基地の存在は東アジアの安全を大きく左右すると言える。米国が日本を見捨てることはないのかといった議論が見られるが、「米軍の大規模な部隊をどこかに再配置することはほぼ不可能」であり「配置可能な地点は戦略的条件を満たしておらず、その上に再配置にかかるコストは天文学的なものとなり、いかなる国も負担することはできない」(17)ため、日本から米国が撤退するとは考えにくい。
 
よって、日米同盟は東アジアの安定には欠かせないものであり、日米同盟の破棄は現状から考えられないと言える。

 

参考文献
 
広瀬義男、(2000年)、『21世紀日本の安全保障―新たな日米同盟とアジア―』、明石書店
北岡伸一渡邉昭夫監、(2011年)、『日米同盟とは何か』、中央公論新社マイケル・グリーンパトリック・クローニン編、(1999年)、『日米同盟―米国の戦略』、勁草書房
村井友秀真山全編、(2007年)、『安全保障学のフロンティア21世紀の国際関係と公共政策I現代の国際安全保障』、明石書店
西原正土山實男監、(2010年)、『日米同盟再考―知っておきたい100の論第―』、亜紀書房
上杉勇司編、(2008年)、『米軍再編と日米安全保障協力―同盟摩擦の中で変化する沖縄の役割』、福村出版

 

 

(1)広瀬義男、(2000年)、『21世紀日本の安全保障―新たな日米同盟とアジア―』、明石書店、60頁。
(2)上杉勇司編、(2008年)、『米軍再編と日米安全保障協力―同盟摩擦の中で変化する沖縄の役割』、福村出版、77頁。
(3)村井友秀真山全編、(2007年)、『安全保障学のフロンティア21世紀の国際関係と公共政策I現代の国際安全保障』、明石書店、179頁を参照。
(4)村井友秀真山全編、(2007年)、『安全保障学のフロンティア21世紀の国際関係と公共政策I現代の安全保障』、明石書店、178頁参照。
村井によれば中国は、海洋国土300万平方キロのうち150万から190万は外国が干渉または占拠していると主張している。さらに、東海(東シナ海)では、中国に主権のある釣魚島(魚釣島)を日本が不法に占拠し、中国のガス電は日本の理不尽な干渉を受け、南海(南シナ海)では中国領である39の島が外国に占領されていると主張している。
(5)マイケル・グリーンパトリック・クローニン編、(1999年)、『日米同盟―米国の戦略』、勁草書房、123頁。
(6)西原正土山實男監、(2010年)、『日米同盟再考―知っておきたい100の論第―』、亜紀書房、110頁。
(7)西原正土山實男監、(2010年)、『日米同盟再考―知っておきたい100の論第―』、亜紀書房、110-111頁を参照。
米国は「枠組み合意」によって、北朝鮮の支援と引き換えに核関連施設を解体させた。また、核拡散を防ぐために日米韓の3カ国が中心となって朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が組織された。しかし、北朝鮮の高濃縮ウラン計画以降、「枠組み合意」とKEDOは崩壊。北朝鮮は弾道ミサイルを連射し、2度目の核実験を実施するに至っている。
(8)村井友秀真山全編、(2007年)、『安全保障学のフロンティア21世紀の国際関係と公共政策I現代の安全保障』、明石書店、187頁参照。
(9)村井友秀真山全編、(2007年)、『安全保障学のフロンティア21世紀の国際関係と公共政策I現代の安全保障』、明石書店、188頁参照。
(10)北岡伸一渡邉昭夫監、(2011年)、『日米同盟とは何か』、中央公論新社参照。
1992年2月には「中華人民共和国領海および接続水域法」が施行された。この法律では、南シナ海が中国の内海、尖閣諸島が中国領とされている。また2005年には、台湾に対する武力行使を合法化する「反国家分裂法」が制定された。
(11)広瀬義男、(2000年)、『21世紀日本の安全保障―新たな日米同盟とアジア―』、明石書店、69頁。
(12)西原正土山實男監、(2010年)、『日米同盟再考―知っておきたい100の論第―』、亜紀書房、108頁。
(13)西原正土山實男監、(2010年)、『日米同盟再考―知っておきたい100の論第―』、亜紀書房、109頁参照。
(14)西原正土山實男監、(2010年)、『日米同盟再考―知っておきたい100の論第―』、亜紀書房、106頁。
(15)マイケル・グリーンパトリック・クローニン編、(1999年)、『日米同盟―米国の戦略』、勁草書房、54頁。
(16)マイケル・グリーンパトリック・クローニン編、(1999年)、『日米同盟―米国の戦略』、勁草書房、42頁。
(17)マイケル・グリーンパトリック・クローニン編、(1999年)、『日米同盟―米国の戦略』、勁草書房、52頁。